山田うん「テンテコマイ」―Sept 独舞 vol.11

 (2004/1/31 @シアタートラム

ライター/荒木靖博

 名前に惹かれたというのが正直なところで、山田うんというダンサーがどういったダンサーなのか、どうゆう活動をしているのかどういった評価の中にいるのかということはほとんど知らず三軒茶屋シアタートラムまで行った。ほとんどというのは、昨年どこかの公演で配布されていた公演パンフレットの中に、「山田うん・ハイカブリ」という葉書サイズの案内が入っていたからだ。
その名前と題名(ハイカブリ)は他のおどろおどろしい印象の強い現代舞踊からは程遠く、コンテンポラリーってそういうのもありなのかと思わせてくれるものだった。そして、今回、「テンテコマイ」である。ちょっと耳を引っ張られるような感じでトラムの入口をくぐっていた・・

 舞台は3つの部分に区切られ、中央メインが白、上下(左右)が黒、下手の黒い空間に空色の大きな2メートルほどもあるクッション。高い天井と吊られた照明器具が印象的な深い空間。闇の中でヒューヒューと不思議な笛を鳴らす音。照明が入ると口に笛をくわえた山田が、自分の身体を制御できない様子でフキゲンそうに揺れる。確かな足取りで歩き出すと、立ち止まり挑戦的な目で客席側のどこか一点を見つめる。途切れ途切れの動きが繋がるかと思うと、裏切られ立ち止まる。立ち止まるかと思うと、しゃがみ足をつかみながらジャンプ。どれが自分の動きなのか動作なのか所作なのか・・試しては確認し、確認しては諦め、諦めては試す。動きは繋がっているようで途切れ、途切れているようでつながっている。偶然なのか必然なのか、必要な動きなのか不必要な動きなのかが、だんだん分らなくなってくる。別にそんなに考えなくてもイイジャン、と山田が教えてくれるようでもある。

 この作品で山田は、子供で俳優で隣のおねえさんで、短距離走者でパントマイマーでバレリーナで体操選手で大人の女でマラソンランナーで、お休みの日に仕事をしている不機嫌で退屈した忙しいダンサーで、機嫌が良くてのんびりして安心して急いでいる・・そんな人でした。日常のなんでもない場面や本人が気づいていない動作を、切り取ったり繋げたり反転させたりすることでだけ表される表情・ニュアンスは、顔色や声・話すことなど「説明すること」では見えてこない雑多な移り変わる感情・情景をあらわしているようで、声を使わない身体表現にだけ可能な方法がそこにはありました。

 流れやリズムを見せるダンスでもなく、身体のうねりもテクニックを押し付けることもない、物語性や意味を強要しないダンスはそれだけで潔く、そこで表現されていることがそれぞれの観客のナニカにミートする感じ。

 それはそれぞれの人の原風景や原体験だったり、現実の生活や心の中にある空想の生活だったり、思い込みや諦めや執着心といった感情を、それ・・ホント?と思わせてくれるようなものでした。