インタビュー #1
作・演出:飯名尚人「アジール」作品制作について語る。

IMG_2181.JPG<音楽:西松布咏>×<ダンス:寺田みさこ>×<作・演出・映像:飯名尚人>の「アジール」。2010年6月に2日間ほど飯名尚人と寺田みさ子が、京都:初音館スタジオで初顔合わせと、演出方法や作品制作の方向性のミーティングを行った。その後、飯名尚人は作品プロット・シナリオ制作に入り、寺田みさこ、西松布咏両氏に個別に作品プランを説明しワークを進めてきている。2011年2月にいよいよ3者が揃う初めてのリハーサルを行い、2011年3月25日には途中経過を発表する予定。昨年11月末、京都に会場下見に訪れた飯名尚人氏に、作品制作について語ってもらった。

インタビュー収録:2010年11月29日@京都JCDN事務局
聞き手:R.Mizuno(JCDN)

縁切寺での西松さん演奏会に行かれそうで。

6月(2010年)に西松さんの演奏会が群馬のお寺であるというんで、聞きに行きたいって話したら、記録映像を撮影してほしいと言われて。その会場が通称「縁切寺」だったんです。行ってみたら資料室があって、要するに江戸時代の離縁離婚話専門の資料館(満徳寺資料館)。ちょっと早く着いちゃったから、その資料館を見ていたら、それが面白いんですよ、資料館として。普通、資料館って昔の書が残っているとか、当時のそういうお寺にあった古い屏風が残っています、っていう、そういう博物館的な歴史資料館が一般的ですが、そこは江戸時代の縁切寺の離婚システムが細かく書かれていました。一体そこでどんなことが行われていたかっていう事が書いてあって、読んでいたら現代と大して変わりないんですよ。手続きの方法とか、そこに駆け込んでくる人たちの、別れたいとか、戻ってきてくれとかっていう、現代と変わらない人間模様と心情があって面白いなと思いました。

縁切門_resize.jpg満徳寺(縁切寺)に今も残る「駆け込み門」その本堂で西松さんの演奏があったわけですが、資料館の館長が"アジール"っていう言葉を使っていたんです。館長は法律の専門家のようで、要するに三行半とか江戸時代のその離婚の研究家でした。だから資料館もその実際のシステムを資料として残していたわけです。
解説パネルに「縁切寺っていうのは、アジールである」と書かれてました。だから「避難所」でもあり、アジールっていうのは「聖域」という意味もあるから、まさにその通りだと。だから尼寺なんですよね。女性が駆け込んでくる寺です。
縁切寺という機能を持ったお寺は、江戸時代に、東慶寺だったかな、鎌倉の東慶寺っていうお寺と、その群馬の縁切寺って言われている満徳寺の2ヶ所しかなかったそうで、どっちかに行くわけです。駆け込むところが他に無いっていう事でしょうね。当時も男性の暴力はあったと思いますよ。お見合いとかもあるから、生理的に受け付けられないものもあるかもしれないし、耐えられないって逃げてくる。このアジールっていう言葉が面白かったんです。


なるほど。お寺が女性にとっての聖域の役割をしていたとはおもしろいですね。聖域=アジールが今回の作品タイトルになってますね。

西松さんの江戸歌というジャンル自体も、今でいうとその当時のポップソングなんですよ。好きだとか嫌いだとか、流行歌みたいな。お座敷でお酒飲みながら、そういう川柳とか社会風刺みたいな感じの内容とかが結構あって、いわゆる伝統芸能っていう崇高な、なんか敷居高く静かに聞くというよりは、手拍子うちながら笑いながら聞くみたいな、芸事っていう側面もあります。今だと高尚な伝統芸能とか国宝だとかなっちゃってて、ちょっと敷居高いんだけど、当時からするとポップソングなんだなと。ラブソングとかそういうの歌ってるから。なので、アジールとか、縁切とかっていうのと、西松さんのされている江戸唄の大衆芸能、しかも恋愛ものが多い、ということに気がついて、そのあたりをテーマにしよう考えました。

今回の作品は、この企画をお願いした当初から“恋愛”をテーマにしようと決めてたんですか?

IMG_2182.JPG恋愛物にしようというのはなんとなく決まってました。具体的に何かっていうんじゃないんだけど、その前にJCDNでやらせてもらった『熱風』という沖縄で作った作品は、どちらかというと結局、社会性だったり政治的な問題とかっていう、ちょっと大きい話になっちゃった。たしかに芸術と社会の接点みたいなものが、今アーティストには問われているわけですけど、芸術がなぜ必要か?っていう議論になったときに、最近の風潮としては、割とそういう政治とか国際情勢みたいなことを扱うことで正当化されてしまうように感じました。なんとなくの戦争とか平和、人権、実は大半が未経験の大きな問題を取り上げて、そういうのはプロジェクトとして注目されていて、それはそれでいい事だと思うんだけど、それだけが芸術と社会の繋がりじゃなくて、もうちょっとポピュラリティが持つ関心、興味って何だろうな、と。

「恋愛」はやはり普遍的です。TVの連ドラにしても、くだらないなー、ありえねーなー、とか思って見てるけれど、何だかんだ言ってやっぱり見ちゃうし、やっぱり好きなんですね。なんでかって言うと、やっぱり身近だから。問題が。芸術として社会性を持ったテーマで、と言ったときの「社会」というものは身近であるべきなのです。「恋愛」と「お金」の問題というのは普遍的で、切実なテーマです。身近かつ大衆性のある問題だと思うんです。で、今回は西松さんと寺田さんっていう、女性2人とのクリエイションだから、恋愛ものをやりたいなあと思いました。

続く #2





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